海洋と森林のCO2吸収力が大幅に低下!
現状, 海洋と森林のCO2吸収量は,人為的なCO2排出量の29%を森林が, 26%を海洋が吸収し, 48%が大気中に滞留していると言われている.

海水によるCO2の吸収は, ① 海水へのCO2溶解と生成された炭酸が深海への沈み込むことで, CO2を深海に送り込むプロセス(全体の90%程度), ② 生物ポンプと言われる, 表層のプランクトンなどの死骸が深海にマリンスノーとして沈み込み, それが深海で細菌に分解されて深海にCO2を放出するプロセス(全体の10%程度), の2つが主要なルートとなる.

海水へのCO2溶解については, 地球温暖化に伴い海洋のCO2吸収量は減少する. これは, 大気中のCO2濃度が増加すると, 海洋が保持できるCO2量 (飽和濃度) が増加するため, 海水に吸収される量も増加するが, 水温の上昇に伴い海水のCO2飽和濃度が減少するため, トータルでは, CO2吸収量は減少するためである.

このため, 水温が低いほど, すなわち極地に近い海域では, 海水のCO2の吸収量は多いが, 熱帯地域ではCO2の吸収量は少なくため, 低水温で多くのCO2を吸収した海水が, 熱帯地域に流れ込むとCO2が放出することになる.
この海水に吸収されたCO2は, 溶存炭酸ガス, 水との反応で生成される重炭酸イオンと電離した水素イオン, 重炭酸イオンから更に水素イオンが電離した炭酸イオンという3つの形態に変化して存在する. 海水中の溶存炭酸ガス, 重炭酸イオン, 炭酸イオンは, それぞれ,約1%, 約90%, 約9% の比率となっている.
これらの反応は平衡反応で, 大気中のCO2濃度が増加すれば, 重炭酸イオン, 炭酸イオンが増加する方向に反応が進み, 水温が上がれば, 溶解イオンが減少する方向に反応が進むことになる.


ところで, 数十億年前から, 雨水に大気中のCO2が溶け込み酸性となった雨水が, 陸地にあるケイ酸塩岩や石灰岩 (カルシウムやマグネシウムを多く含む岩石) に触れると,岩石をじわじわと溶かす化学反応(風化作用)が起き, 重炭酸イオンが生成される. この重炭酸イオンは, 川の水は酸性のため, 重炭酸イオンのまま海に運ばれるが, 海水はアルカリ性のため, 重炭酸イオンから水素イオンが分離した炭酸イオンになる反応が促進される.このような営みが数十億年前から続いてきたため,太古からの風化によって生成された炭酸イオンが海水中にかなり存在している.
このため, 大気からCO2が海水に溶け込んで水素イオンが電離されても, 海水中に既に存在する炭酸イオンと反応して, 重炭酸イオンが生成される. この反応があるので, 海水が多量のCO2を貯蔵できる訳だが, 海水中の炭酸イオンが消費されてしまうことになる. 産業革命以降,海水中の炭酸イオンは,常に消費され続けており, 更に炭酸イオンが消費されると海水中に水素イオンが増加し, 酸性になると共に重炭酸イオンも生成できなくなる. すなわちCO2が溶け込まなくなる.
また, 炭酸イオンの消費に伴い, 海水の酸性化が進むと, 軟体動物や特定のプランクトンの殻が溶け始めて死滅するため,生物ポンプが機能しなくなる.
海洋のCO2吸収プロセスの内, 大気中のCO2濃度が500ppmに達すると, 前記の生物ポンプが機能しなくなると言われている.
更に, 大気中のCO2濃度が700~800ppmになると海面表層の炭酸イオンがほぼ消費し尽くされるため, 海洋のCO2吸収能力が半分以下になると言われている.
そして, 大気中のCO2濃度が1000ppmを超えると, 気温, 水温の上昇に伴い, CO2の吸収できなくなり, 更に, これまで深海に貯蔵していたCO2を放出することになる, すなわち海洋がCO2の排出源になると言われている.
現在の大気中のCO2濃度は, 産業革命以前の約278 ppm から1.5倍以上の約430ppm 近くまで増加し, 気温は1.55~1.6℃, 水温は世界平均で0.6℃, 日本近海では, 100年で1.4℃程度上昇しており, 海洋のCO2吸収量が減少しているばかりでなく, 更に, 北大西洋の高緯度(グリーンランド沖など)や南極海において, 冷たい大気に冷やされた表層の海水の密度が大きくなり, 更に, 海氷が形成される際に塩分が水中に取り残され, 海水がさらに重くなることで一気に深海底へと沈み込み, 深層流として, 約1000年世界の海洋の底をゆっくりと移動した後, 太平洋やインド洋などで徐々に表層へと上昇し, 表層に戻った海水が, 風などによって駆動される表層海流(メキシコ湾流など)に乗って, 再び高緯度地方へ運ばれる熱塩循環という現象が弱まっており, CO2の吸収量が多い極地に近い低水温域から, CO2を豊富に吸収した海水が海底へ沈み込む量も減少していると言われている.
すなわち, 地球温暖化に伴い, 海洋のCO2吸収能力が弱まっており, 温暖化効果ガス(CO2)の排出量を大幅に削減し, 気温の上昇を早急に抑えないと, 温暖化が更に加速されるフェーズに近づいているということである.

一方, 森林のCO2吸収量は, 過去20年で1/4まで減少したと言われている.
森林のCO2吸収は, 熱帯地域と寒冷地では, メカニズムが大きく異なっている.
寒冷地では, 枯れ葉や倒木などの有機物質が微生物によって分解されにくく, 数百年〜数千年かけて土壌や永久凍土層に炭素が蓄積するという特徴があり, 陸域生態系の全炭素貯留量の内, かなりの割合がこの北方林の土壌に集中している. しかしながら, 気候変動の影響で,過去30年間で寒冷地森林の炭素吸収量は36%も減少しており, ”吸収源“ から “排出源” への転落することが現実味を帯びているとのこと.これは, ① 気温上昇による乾燥化と落雷の増加により, シベリアやカナダで前例のない規模の森林火災が毎年発生し,樹木が蓄えていたCO2が一気に大気中へ放出されていること.

② 火災の熱や気温上昇によって地下の永久凍土が溶け出し, これまで封じ込められていた有機物が一気に分解を始め, CO2ばかりでなく, 温暖化効果がCO2の数十倍のCH4が大量に放出されること,
③ 冬の期間が短くなり土壌の温度が上がることで, 土の中の微生物の動きが活発になり, 土壌に貯まっていた炭素の分解スピードが, 植物の光合成による吸収スピードを上回りつつあること,の3つが主要な要因で, 世界全体としては依然として炭素吸収源だが, ボリビアやカナダなど, 一部の森林地域では吸収量よりも排出量が上回る ”排出源“ へと変化した地域も出ているとのこと.

これに対して, 熱帯林の最大の特徴は, 年間を通じて高温多湿であるため, 植物の成長スピード (光合成の効率) が圧倒的に高い点であり, 世界のすべての陸地が光合成によって吸収するCO2の約35%を熱帯林だけで占めている. 寒冷地の森林が “土壌” に炭素を溜めるのに対し, 熱帯林は植物そのものに炭素を貯蔵しており, 地球全体の植物が蓄えている炭素量の約57%が熱帯林に集中している.
近年は, 気候変動による異常高温やエルニーニョ現象に伴う深刻な干ばつにより, 熱帯雨林が乾燥化し, 水分不足になった樹木は光合成を休止, あるいは枯死するため, 森林の純粋な吸収力が過去数十年間で大幅に減少している.
ブラジルのアマゾン熱帯雨林などでは, 牛肉や大豆の生産目的とした商業伐採や, アブラヤシのプランテーション開発といった人為的な森林破壊が続いており, すでにアマゾンの一部の地域 (特に東部) では, 破壊や火災によるCO2排出量が森林が吸収するCO2量を上回り, 純排出源へと逆転したことが確認されている.

一度森林が分断されて乾燥が進むと, 本来の高温多湿な微気候を維持できなくなり, 2050年までにアマゾンの最大半数近くの森林が乾燥した草地 (サバンナ) に変貌し,蓄えられていた膨大な炭素が地球上に解き放たれる可能性があると言われている.
すなわち, 地球温暖化に伴い, 寒冷地, 熱帯地域共に, CO2吸収能力が弱まり, “吸収源” から ”排出源“ に変貌しつつあり, 温暖化効果ガス(CO2)の排出量を大幅に削減し, 気温の上昇を早急に抑えないと, 温暖化が更に加速されるフェーズに近づいているということである.
地球の大事なCO2吸収源である海洋も森林は, 地球温暖化などの影響で, 吸収能力が急速に低下しており, 温暖化対策を後回しにし続けている現在の政策が続けば, 人類や地球にとって後戻りできない変化を起こす ”ティッピングポイント(転換点)“ に, まもなく到達する可能性が高いといえる.
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