バッテリーEVは, 本当に環境に優しいのか?
リチウムイオン電池の正極材料としてよく用いられる材料は, リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており, 代表的な材料は, コバルト酸リチウム, 3元系(リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸系), リン酸鉄リチウム, マンガン酸リチウムなどがあり, 高出力・高容量電池には, 3元系が用いられることが多い.
この3元系に用いられる,コバルト, ニッケルなどは, 採掘, 精錬などの段階で, 深刻な環境汚染や人権問題を起こしている.
コバルトに関する最近のニュースでは, 2026年3月11日にAFP通信が報じたもので, “コンゴで中国所有コバルト処理プラントからの二酸化硫黄で公害, 流産や先天性異常も 報告書” というものがあった.
これは, コンゴ民主共和国で中国が所有するコバルト鉱山・処理プラント(選鉱場・精錬所)から排出された二酸化硫黄による公害が, 地元住民に「公衆衛生危機」を引き起こしているというもの. 具体的には, 2023年にコンゴ南東部のテンケ・フングルメ鉱山 (世界のコバルトの約半分を生産する中国の洛陽欒川モリブデン業集団が所有) が操業を開始して以来,地域住民が鼻血,せき, 吐血などの症状に悩まされているほか, 流産や先天異常も報告されており, 銅・コバルト鉱石の加工過程で発生する有毒ガスである二酸化硫黄の濃度が国際基準を大幅に上回っていることが明らかになったというもの.

上の写真は, コンゴ民主共和国で中国が所有するコバルト鉱山・処理プラント

コンゴ南部は世界シェアの約4分の3におよぶコバルトを生産しており,上記は, コバルトの採掘から精錬に関わる環境汚染の一例に過ぎず, これ以外にも,
⑴ 手作業による小規模な採掘も多く, 掘り出された鉱石の粉塵が周辺の大気や土壌を広範囲に汚染する,

⑵ 数万人の子供が危険な環境で働かされている深刻な児童労働の問題がある,

⑶ 鉱石からコバルトを取り出す処理施設の排水には, 重金属が含まれており, これが川や地下水に流れ込んで, 地域全体の水を汚染する,
⑷ 土壌や水質の汚染は, 農作物の生育不良や家畜への健康被害を引き起こし, 現地の農業にも打撃を与える, などの問題が生じている.
また, ニッケルについても,インドネシアでは, 中国の製錬大手やインドネシアの国営・新興財閥系企業によって,
⑴ ニッケルを採掘するために大規模な森林伐採が行われ, 生態系が破壊されている,


⑵ 採掘や精錬の過程で発生する排水や廃棄物が近くの川や海に流れ込み, 水質・土壌汚染が深刻化している,
⑶ これにより, 地域住民の重要な収入源であった農業や漁業が大きな被害を受けている,
⑷ 採掘現場の近くに住む住民は, 汚染された水源を使用せざるを得ない状況に追い込まれ, 健康被害を受けている,
⑸ 土地収奪など先住民族や地域住民の権利が十分に守られていないという人権上の問題が発生している,
⑹ インドネシアのニッケル製錬所は大量の電力を使用しているが, その電力の多くを石炭火力発電に頼っているため, 製造過程で大量のCO2が排出されている.などの問題が生じている.

このように, バッテリーEVに用いられるリチウムイオン電池は, 用いられる電極材料の採掘や精錬の段階だけでも大きな環境汚染を引き起こしている.
バッテリーEVは, ”ゼロエミッション“ だとCMなどで謳われているが, これは車両が走行時に排気ガスを出さないということだけで, 充電する電力を発電する時に排出する排気ガスは含まない.この発電時の排気ガスまで含めた評価は, Well to Wheel での評価と言われる. 更に, バッテリーの製造時にも, 電極材料の焼成工程や電極の乾燥工程でもかなりのエネルギーを消費するし, リサイクルの段階でもエネルギーを消費するので, 先の採掘, 精錬でのエネルギー消費も含めた評価をLCA (Life Cycle Assessment)と言われている. メーカーのCSR (企業の社会的責任) レポートでもLCAの評判結果を提示しているが, エネルギー消費に伴う GHG (Green House Emission: 温室効果ガス, CO2など) の結果のみである.

バッテリーEVの LCA 評価の結果は, バッテリーEVは, 製造時の GHG は, ガソリン自動車より多いが, 走行時まで含めると, トータルの LCA 評価は, バッテリーEVの方が少ないという結果となっているが,環境汚染や人権問題がLCAで評価評価されたものを見たことがない.
最近は, 上記のような環境影響を評価する従来のLCA (E-LCA) に加え,
製品の供給網に関わる労働時間, 児童労働・強制労働の有無, 適正な賃金, 健康と安全など, 人々の人権や労働環境, 地域社会への影響を評価する (S-LCA),
製品や建造物, サービスなどのライフサイクルにかかるすべての費用を合計し, 経済性を総合的に評価する手法 (LLC)
が存在し, E-LCA, S-LCA, LCC の3つの側面を統合し, 持続可能性を総合的に評価する “LCSA (Life Cycle Sustainability Assessment)”という枠組みが国際的な主流になりつつとのこと.

メーカーの CSR レポートでは, GHG の評価結果のみが示されているが, 本来は, 窒素酸化物, 硫黄酸化物, 排気微粒子, タイヤからの磨耗微粉 などの排出物質や, 重金属類の微粒子拡散に伴う健康被害などを総合的に評価するのが, E-LCAであり, 従来から, E-LCAの総合評価 (各排出物質のLCA評価結果を1つの指標:例えば金額に換算) を可能にする統合化が行われている.
LCSA に統合化のプロセスがあるかは分からないが, バッテリーEVの評価にも, GHGのみではなく, より広範な排気物や健康被害を含めたE-LCA や S-LCA の評価が必要であり, メーカーは, これを公表すべきだと思う.
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